学生時代、私は学費を稼ぐためにいろいろなアルバイトをやったが、その一つとして、
有名な某カニ料理レストランで働いた事がある。
外国人観光客の多い店だったが、英語とスペイン語が話せた私は結構重宝がられたものだった。
国籍を問わず、とにかく外国人の客が店に入ると、必ず私にお呼びがかかった。
メニューの説明をして注文を取るためだ。
ある時、ドイツ人の老夫婦が食事にやって来た。
私はドイツ語は話せなかったが、スペイン人の家政婦を雇った経験があった彼らは、
かなりスペイン語を解する事が出来た。
話をするうちに彼らと仲良くなった私は、翌日、京都の町を案内してあげる約束をした。
ガイドの仕事でいつも案内していた金閣寺や二条城、京都御所などはお手の物だったが、
その他の場所となると、さっぱり勉強不足だった。
すでにそれらのメインスポットを見学した後であった彼らは、南禅寺を見たいと私に告げた。
一度もこの寺について勉強をした事がなかった私は、特に説明する事は出来ないが、
通訳として同行するだけでも助かるだろうと思い、一日、彼らに付き合う事にした。
初めて訪れる南禅寺の大門に私自身も感銘を受け、こんな事でもなければ自分だけで
この寺を訪れる事は無かったかもしれない、などと考えているところへ、老夫婦が私に
質問を投げかけた。
「これはローマ建築を真似たものですか?」
彼らが指差す方向を見ると、そこには何やら大きな橋のようなものがあった。
当時の私には恥かしながらそれが一体何なのかさっぱり判らず、ただ首を傾けるだけだった。
すると、彼らが言った。
「これはおそらく水道橋で、ローマ建築を参考にして作られたものだと思う。とっても似てるよ。」
ローマ、、、
何やら昔、世界史で習ったような名前だが、はて、どこか昔の国名だったか、
民族名だったか、或いは町の名前だったろうか、、、