スペイン生活30年・今も続く私の冒険

くま伝

日本を飛び出してみたいと考えている方々、目的を見出せず悩んでいる方々へ


第34章 ものさし(後編)

『私の好きなスペイン』


私がこの国、この町マドリッドで持つ「ものさし」は、例えばこうである。

「この国の大都会を歩く時には、極力、物は持たない。」

そうしていれば、何も盗まれないし、そのような事件に巻き込まれる可能性は、
限りなくゼロに近づくのである。

「そうは言ってもスペイン人だって、普通にバッグも持てば、いろいろな物を
持ち歩いているではないか。地元の人がやっている事を真似て何が悪い?」

このような勘違いをする人がたまにいるが、地元の人は外見も中身も全て
地元の人であって、我々は、例え20年近くこの地に住んでいる私でさえ、
少なくとも外見上は日本人ツーリストと同じなのである。
泥棒は基本的に、地元民を襲う前に、外国人ツーリストを襲う。
これは後から訴えられないための泥棒業の鉄則である。
ツーリストは現地で裁判などせず、すぐに自国へ帰っていくのだから。

また、中には、無事何の事件にも巻き込まれなかった自分の個人的旅行体験から、
スペインでは、全く注意する必要など無いと無責任な発言をしたり、
先にも述べた、全くセキュリティー環境の無い、とんでもない安宿を、平気で人に
紹介したりする人がいる。
これも実に困ったものである。
更には、このような一般旅行者の個人的体験談と言う極めて危険な情報ばかりを
集めて本にしたようなガイドブックも出回っているから、たまったものではない。
これでは、個人旅行者の事故が多発するのも当たり前である。
スペインに限らず、個人で旅行した経験のある方々、またこのような体験談を
中心にガイドブックを作っている会社は、人道的な面からその言動には、
充分な配慮を心からお願いしたいものである。

 旅行をする際のもう一つのスタイルとして、旅行会社が主催するツアーに
参加すると言うパターンがある。
この場合、個人旅行に比べれば、盗難の被害にあう人は極めて少なくなる。
その理由は、第一に、自由行動の時間が限られていること。
第二に、旅行社を通して、治安に関する注意事項が、不完全である事はあっても、
それなりに伝えられているからである。
この点に関しては、個人旅行よりも安心出来ると言えよう。
しかし、同時に、いくつか前の章(第30章参照)で述べたような問題が近年の
多くのツアーに見られるのも事実である。
私は、そう言った、ビジネスに染まりその心も質も失った多くのツアーを
長年案内して来たが、流石に16年もやっていると疲れてしまった。
ツアーの粗を隠すために自分までが嘘をつかなければいけない事も多々あった。

私が好きで住んでいるスペインはこんなものではない。
私が好きなスペイン料理はこんなものではない、と心の中では思いながらも、
笑顔を保ちながら、それをあたかも本当のスペインの姿であるかの如く
案内しなければならなかったのだ。

こんな事を続けていてはいけない。
長年住まわせてもらっているこの国、この国の人々に申し訳無いではないか。
なんとか、個人で旅行する人にも、ツアーで旅行する人にも、また、
旅行しないまでもスペインと言う国に興味を持つ方々に、多くのマスメディアや
旅行社が提供する偏った、そして時に真実とは違う故意にゆがめられた
スペインではなく、より真実に近いスペインの姿を、そしてこの国の「ものさし」を
伝える事は出来ないものだろうか。
何時の頃からか、そんな事を考えるようになっていた。


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