スペイン生活30年・今も続く私の冒険

くま伝

日本を飛び出してみたいと考えている方々、目的を見出せず悩んでいる方々へ


第42章 協会文化活動としての旅行(後編)

『さらば二本柱』


 「企業」は営利活動を主目的として設立される法人であり、経済活動を行う事によって
その収益を求めるものである。
それに対し、「協会」は、何等かの主目的を持って設立される法人で、その主目的は営利活動
であってはならない。
ただし、その活動の一部として、金銭の集金を伴う活動が存在しても何等問題は無い。

つまり、仮に弁護士協会が、「男女同権」と言うテーマでもって一般向けにどこかの会場で
説明会を開き、それに参加を希望する方々から入場料を取ったとする。
これは、プロのピアニストがリサイタルを開いて入場料を取るのと本質的にやっていることは
同じであるが、法律上、違った活動としての解釈が可能になる。
リサイタルは、営利目的で行なったものであるが、弁護士協会の説明会は非営利活動として
弁護士協会と言う名に適合した活動を行なったに過ぎない。

 なにやら、煙に巻くような話だ、、とお感じの方もおられるだろうが、リサイタルの場合、
入場料として得た金銭を自らの収入として税務署に申告する事となるが、説明会の場合、
集金した入場料は、収益として協会の口座に残るものでは無い。
厳密に言えば、多少の金額が残る事はあるが、そう言うことが繰り返され、収益として
蓄積されるものでは無い。
一旦は、弁護士協会の口座に入金されるが、そこから、説明会で使用した会場費用や、
その日、壇上に立って参加者達に向けて分かりやすいようにお話をしてくれた数人の弁護士等に
対する日当が支払われる事となる。
つまり、説明を行った弁護士はちゃんと仕事をした分の給料を協会に請求し、会場を貸した人もまた、
そのレンタル代を協会に請求し、これら全ての経費を当日の参加者から受けとった入場料から
捻出する事によって支払い義務がクリアされる。
結果として、協会の口座には収益は残らない。
協会が儲けるために行なった活動では無いからである。

実に簡略化した説明だが、これが企業と協会の大きな違いであること、お判りいただけたであろうか。

これを我々が運営してきた文化協会と、その主な活動である「文化旅行活動」に照らし合わせて
みると、協会運営のホームページ、「スペインなんでも情報リアルタイム!」では、スペインに
関する一般的な情報提供は勿論、更には個々人から寄せられる質問についても、可能な限り
迅速に、そして正確に、サイト内に設置された掲示板を通じて情報提供を心がけている。
勿論、情報提供の手段として掲示板を設けてはいても、メールや電話で直接問い合わせを
してくる人も後を絶たない。
本来、こう言う役割は、政府観光局などが行うべきでは無いかと思うが、文化協会と言うその名と、
社会的立場を踏まえた上で、可能な範囲でこれら全ての問い合わせへの対応を社会的・
文化的ボランティア活動として続けている。

そして、旅行の相談を受けると、まずは依頼人と緻密な連絡を取り合い、その方に合った誂えの
旅を作り上げて行く訳だが、それに必要な費用を最低限に抑えるために協会が存在する。
つまり、協会ではなく、ここに旅行社と言う企業が介入するのとは、全く違った結果が生じる事となる。
仮に我々が行っているように、一人一人個別に、何ヶ月にも渡ってメール交信を繰り返し、
それぞれの方に合った「唯一の誂えの旅」を作れるような旅行社がこの世の中に存在すると
仮定した場合、その旅行社にしてみると、それだけの対応が出来る専門知識を持った人材を
何人か、かかえなければならなくなり、また、利益をあげなければ成り立たないと言う、
企業であるがゆえの本質的課題がある事から、その旅行費用は格段に高いものとなってしまう。

これに比べると、利益をあげる必要の無い協会が間に入ることにより、また、文化活動である事に
共感を持ち、その活動を援助してくれるスタッフ等の協力を得る事により、特殊とも呼べる内容を
伴った旅であるにも関わらず、その費用は最低限に抑える事が可能となる。
利用者にとっても、また、スペインが好きでここに住み、自分の第2の祖国をありのまま紹介したいと
思っている我々にとっても、まさに理想的なスタイルがここに生み出されたと言えるのでは無かろうか。

唯一の欠点を挙げるとすれば、我々が対応出来る相談の数が限られており、決して多くの
要求には応じられないと言う事だろうか。
そしてこれを言い換えると、我々が持ち続けたい「心」とは、「ボリュームを増やし、収益を
増やす事によって、本来の「質」が落ちるような事だけは避けたい」と言う事。
日ごろからこれをスタッフ達といつも口に出して確認しあうよう心がけている。

このような形で、文化活動としての「旅行」の紹介を続けるうちに、いつの間にか、
これの対応に追われ、他の事にまで手がまわらなくなって来てしまった。
我々の心が、スペインファンに通じ始めたのだと思う。

 かくして、インターネット活動を開始した際に作り上げた、会社と協会と言う「二本柱」による
運営形態に終止符を打つ時がやって来た。
「自分で納得の行かない広告を掲載しなければ経済的に苦しい」と言う不本意な環境に
さよなら出来る時が。


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