スペイン生活30年・今も続く私の冒険

くま伝

日本を飛び出してみたいと考えている方々、目的を見出せず悩んでいる方々へ


第45章 一つだけ胸を張って威張れる事(第三部)

『どうして、そんなスペインのマイナスになるような事をバラすの?』


 この異常とも思える状況を案じた私は、「ビジネスの前に人の安全」と言う極当たり前の事を伝えるための
手段として、「スペインなんでも情報リアルタイム!」と言うホームページを通じ、スペインの治安状況悪化と
その現状、そして必要な対策について、一切、包み隠すことなく、知る限りの全てを公表した。
正確な情報さえ提供出来れば、防げる事故がほとんどであったからである。

私のこの判断と、事実の公表に対し、旅行業界からは、しばしばバッシングを受けた。

 「どうして、そんなスペインのマイナスになるような事をバラすの? お客さんが来なくなっちゃうじゃない!」


 私の答えはいつもこうであった。

 『もしも私の親が旅行に来ると言ったら、彼等に伝えるであろう注意事項と同じ事を他の人々にも
  伝えたいだけですよ。 あなたは、今、お客さんを泊めているあの治安の悪い地域にあるホテルに、
  あなたの両親を泊めますか?』

この問いに対し、ちゃんと答えた人は誰もいなかった。

皆、自分達がやっている事が間違っているという事に気付いてはいるのである。
それでも、これを改善すべく行動に移す人はなかなか現れなかったようである。

   結局、私がインターネットと言う全く新しい報道手段を使って、スペインの現状を全て公表したために、
あっという間に世間では「スペインは治安が悪いらしい」との評判が広まり、そして定着した。
勿論、その結果として、スペイン方面へのツアーの数が減少した。
これに対し、またもや、旅行業界から嫌みを言われる事があったが、私が返す答えはいつも同じである。

 「自分の身内に接するのと同じ気持ちで他人とも接しましょうよ」


 スペインへのツアーも個人旅行者も減り、旅行会社も、現地で働くガイド仲間も収入が減った。
そして、その代わりに得たものは何であったか?

・	日本から一歩、外へ出れば、日本と同じような平和な感覚では駄目なところもあるのだ、
      と言う日本人の意識改善。

・	ツーリスト一人一人が今まで以上に注意するようになったおかげで、日本人ツーリストの
    被害件数が目に見えて減少した。

・	ガイドブックを販売する全べての出版社が、治安情報にページを割くようになった。

・	ツアー会社が、隠しきれなくなったのを理解し、積極的に対応策を考えるようになった。

・	民間のホームページが全てを公開したため、日本政府においても黙っている訳には行かなくなり、
    インターネットを通じた海外治安情報の提供に真剣に取り組み始めた。
・ 現地日本国大使館や現地日系旅行会社、日本人通訳協会など、スペインを訪れる     日本人ツーリストと深く関わる人々が、スペインの現地警察と協力して日本からの旅行者を     守るための日本人ツーリスト特別保護体制を生み出すことに成功した。

 書き出せばその成果はまだまだ挙げられると思うが、ちょっと振り返っただけでもこれだけの結果を
出すことが出来たのだ。
一時的なビジネス上のマイナス面を憂うより、信用してくれている人々に対し、正確で安全な情報を提供して、
長い目で見た場合の経済的、そして人道的な利益を求めた時に初めて勝ち取ることができた大きな功績では
ないか。

スペインだけではない。
全ての国々が、それぞれの問題点を抱えている。
ただ、どこの国も、一時的なマイナスを恐れて、都合の悪いことについては、可能な限り隠しているだけ、
と言う人間社会が持つ潜在的な一面があるという事を忘れずにいたいものである。

スペインの治安問題については、このような流れで、多くの方々の協力を得て、一つの大きな峠を
越える事が出来た。
最終的に同じ方向性を持って尽力して下さった方々全員に感謝しているが、この場に及んで、一つだけ
言わせてもらいたい。

私のように財力も社会的地位も持たない一個人ではなく、社会的影響力のある大手企業や政府が
最初から親身になって動いてくれていれば、せっかくの楽しい旅行を台無しにされる人も減っただろうし、
異国の病院に入院させられるような目に遭うことを免れた人もあったと思う。
今更、平和勲章をよこせとは言わないが、こう言った一個人の隠れた努力によって事が隠しきれなく
なるまで放置しておくという事は今後、繰り返さないで欲しい。


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