スペイン生活30年・今も続く私の冒険

くま伝

日本を飛び出してみたいと考えている方々、目的を見出せず悩んでいる方々へ


第48章 ローン返済の対策「後編」

『定価の文化』


 日本へ一時帰国した際に、実家の近くにあった某大手保険会社の営業所に
電話をかけ、5年間の長期海外旅行保険の相談を持ちかけた。
長期契約と聞いて、保険会社のセールスマンはすぐに私の実家へやって来た。
通常の海外旅行保険ではなく、こちらから数々の注文をつけた。
その中で最も重要なリクエストは、死亡保険部分の補償額の増額、そして、怪我や
疾病で入院した場合の補償額の増額と、入院後、保険金支給開始までの日数の
短縮だった。
最初、セールスマンの説明では、入院したあと、2週間以上、入院が続いた場合に、
15日目から保険金が下りるとの事だったが、これを1週間に短縮するよう変更を求めた。
つまり、1週間以上、仕事が出来ないような事態が生じた場合には、8日目から
日当が支払われる訳である。
これぐらいの保証は確保しておかないと、日雇いの肉体労働者としては、住宅ローンを
払い続けるのには不安があった。

様々な注文をつけ、数日後、セールスマンが本社の認可を得て見積書を持ってきた時に、
私は彼に言った。

「コミッションを分けませんか?」

きょとんとした顔をして、「え?」とだけ答えた彼に対し、私はこう続けた。

「あなたも代理店としてこう言った営業をされている訳ですが、今回のこの
海外旅行保険としては大口とも言える契約を取るにあたって、本社の売値の
少なくとも15~20%程度のコミッションが入りますよね?
今回、私からお電話を差し上げてこの契約が成立するのですから、たまたま
飛び込んできた、言って見れば、これは棚から牡丹餅のようなものだと思います。
代理店のコミッションが何十%かは知りませんが、一割ぐらいは引いて頂いても
良いのではありませんか?」

結局、見積もり金額から10%の割引を適用してもらってのサインとなった。

これにて、住宅ローンの返済中、少なくとも大怪我や大病を患った時の心配は
解消することが出来た。
幸い、ローン完済まで、この保険の世話になることは無かったのだが。

セールスマンが帰ったあと、母親が私に言った。

「保険屋さんを値切る人なんか初めて見たわ!」

物には定価がある、と極普通に受け止めているのも、日本人民族の一つの特徴だと思う。
コカコーラが100円と言われれば、そのまま素直に疑いもせず100円を支払う民族は
世界にそうは存在しないのでは無かろうか。
ただ、近年になって日本でも「価格破壊」などと言った不思議な言葉が発明され、
ようやく「定価の文化」と言うのものに疑問を持ち始めたように思えるが。

スペインはまだ値段が安定している方だが、すぐ南にあるモロッコへ行こうものなら、
全ての値段は、交渉に交渉を重ねて初めて決まる。
そう言った日本とは全く違う社会に何年も暮らしているうちに、私の言動には
実の親でもびっくりするような事が増えつつあったようだ。


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