第11回(2003年1月)


「言葉はスペインに行けば何とかなるよ!」は、うそ!?

 NHKのスペイン語のラジオ講座で少し勉強しただけでやって来た私は、はじめは特にスペイン語が大変でした。 ペンションの肝っ玉おばちゃんが毎日、『オラー コモエスタ キーコ』とか『オラー ケタル』といって私の顔を見ると 話しかけてくるのですが、はじめはわからず、日本人の悪い癖「 にた〜 」と笑ってごまかしていました。 しかし、毎日笑って答えていると自分でもバカのようで、何を言っているのか、また、どのように答えるかを会話の本で 調べました。
『調子はどう? キーコ(おばちゃんがつけた私の呼び名)』とか『元気〜?』と聞いてくれていたことがわかったのですが、「元気でーす」というスペイン語のイントネーションがもんだいです、・・『鼻炎』ではなく、『び・えん』でもなく『ビエーン』かな? ・・・わからず、またしばらくの間、笑ってごまかしていました。

 ペンションでは自炊ができないので、食事は近くのレストラン(スペイン料理)で食べるのですが、料理の注文は、笑ってごまかせませんので、これがまた大変。メニューが何と、全てスペイン語!
「スペイン語会話」の本に載っていないメニューの方が多く、しょうがないので、「前菜」も「スープ」も、「肉」料理も「魚」料理も、メニューを上から順番に毎日、注文していきました。といっても言葉で注文したのではなく、メニューに指をさし、『エステ(これ)』と言うだけです。
あるレストランでは、食べ終わった後、カマレロ(ウエーター)がスペイン語で聞くのです、何を食べたかを! 何で注文した料理を書かなかったのかが不思議でした。
しょうがなく、またメニューを持ってきてもらって指を使いました。こうしているうちにスペイン料理の種類をだんだん覚えていきました。

 ある日、いつものようにペンションのテレビのある居間(兼、食堂)に辞書を持っていくと、肝っ玉おばちゃんと小学6年生ぐらいの息子が食事をしていました。豚骨スープの中に「そうめん」を2センチ位の長さに切ったような物(細くて小さいマカロニ)がたくさん入ったのを美味しそうに飲んでいました。その後は、ジャガイモとキャベツ、二センチ位に切られた、赤いソーセージ(チョリソ)や黒っぽいソーセージ(モルシージャ)が1個づつ、ほとんどが脂身の豚肉がひとかけら、そして「ガルバンソ」という豆(日本で言う「ヒヨコマメ」)がたくさんお皿に入っていました。(「コシード」という料理)温かそうに湯気の上がった料理がとてもおいしそうでした。

 ヨーロッパの人達が食べる食事は、フランス料理のようなものか、または、ステーキのような豪華な食事をしているものと何故か思っていましたが、ペンションの肝っ玉おばちゃんの料理は、野菜が中心で、あとは、腸詰ソーセージが少し、または鶏肉か豚肉で、牛肉はまれだったと思います。 

 この小学生の「カルメロ」という名前の男の子に頼んで、パン屋や郵便局の場所、朝食のミルクやバターを売っている店、市場、そして、部屋の暖房に使うキャンプ用の小さなガスストーブのボンベを買う店、雑貨屋・・・等、日常生活に必要な事を教えてもらいながら、会話の練習の相手をしてもらいました。ひと月の「レッスン代」をわたすと、とても喜んで自分の欲しかったカメラを買い、家族に自慢して見せていました。
『おまえは、自分で働いたお金で買ったんだよ! 良かったね!』と息子をほめる肝っ玉おばちゃんや兄弟。そして『グラシアス キコ』(ありがとう キーコ)と言ってくれた家族。私は、『デ ナーダ』(どういたしまして)と言い、その後、「ありがたかったのはこっちで、私に付き合ってスペイン語を教えてくれたのだから当然ですよ!  こちらが言う言葉です、 グラシアスは!」と、その時言えなかったのが残念でした。

 ペンションのこの小学生のカルメロ君に教えてもらったスペイン語のノートを頼りに一人で買い物をするのですが、スペイン語は失敗ばかりでした。
ある日、ガスストーブのボンベの交換と牛乳(1リットルの瓶)とパンを買いに出かけました。
牛乳を売っている店で、「ダメ、ウナ ボンボーナ デ レーチェ」(ミルクのボンベをひとつください)と言いうと、変な顔して私を見ましたが、店のおばちゃんはミルクを売ってくれました。しかし、ガス屋で、「ウナ ボテージャ デ ガス」(ガスの瓶をひとつ)というと、店のおっさんが、私が持っている牛乳瓶とパンを見ながら、「ナントカ カントカ ベラベ〜ラ ベ〜ラベラ、 あっはは〜(笑い)・・・ボンボーナ! ボンボーナ!」と、大きな声でしゃべってきて、何事かな?と、しばらくわかりませんでしたが、牛乳の「瓶」(ボテージャ)とガスの「ボンベ」(ボンボーナ)とを間違ったことに気付きました。
恥ずかしかったのですが、「ボンボーナ ボンボーナ !」と私も大きな声で言いながら、店のおっさんと一緒に笑いました。

 このおっさんとはその後、友達のように仲良くなりました。それからは、間違ってもいいから恥ずかしがらずにスペイン語はしゃべればいいんだと思い、会話をするようになっていきました。やさしいスペイン人は間違ったら直してくれます。
「スペインに行けば何とかなるよ!」とは、このように大変ですが、何とかなります。 。

来月に続く

■エル・アルボンディガのプロフィール


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