第19回(2003年10月)


夏のフラメンコ・フェスティバル 3 『これが“ ドゥエンデ ”かな !?』

 ウトレラのカンテ・フェスティバル“XXIII POTAJE GITANO”(1979-6-23)での、テレモートの歌とモラオのギター、 ・・・「何か」がのりうつったような会場を包む異様な雰囲気に、一瞬、肌寒くて、ゾ〜とした私は、回りの人々と共に違った次元にでも 移ったかのように感じ、「シギリージャ」という『天の浮舟』にでも乗って現実を少し離れたような時を経験したのが忘れられません。

 私の右側のワインをくれた、おっちゃんとおばちゃん、左側の、鳥肌の出た腕をさすっているおじいちゃん、そして、まわりのスペイン人達が、 昔からいろんな事がお互いにあったのを知っている親戚のように思えたのが不思議でした。
『おっちゃん、おばちゃん、ワインおおきに! ほな、また。』『アディオース!さいなら!、おじいちゃん!』・・・おっちゃんも、おじいちゃんも 握手しながら私の肩をぽんぽんたたいて、・・(今日はよかったな〜、ええ歌聞けたな〜、また合おな〜!)・・・と、言っているようでした。

 このとき以来、自分はまだフラメンコを知らないから、とか、スペイン人じゃなく日本人だから、とか、アンダルシアに生まれたわけではないから、 ・・・・フラメンコはまだわからない、・・・なんて考えないで、素直に同じ人間として感じようと思うようになりました。

 テレモートの後、歌い手は、フアニート・ビジャール、ペパ・デ・ウトレラ、チャノ・ロバート、カマロンとつづき、そして、夜中の1時半ごろから、 ベルナルダとフェルナンダを初めて身近で聞きました。そして最後は皆が出てきて フィナーレ、・・・終わったのは夜中の3時が過ぎていました。昼間と違ってとても寒い夜中の街を、セビージャ行きの一番バスが出る ターミナルへと歩きました。

 ウトレラのフェスティバル“POTAJE”からトゥリアーナに帰って、ギターも弾かず、録音したテープをよく聞きました。 あの時のテレモートの『シギリージャ』、・・・「これが、ひょっとしたら、“DUENDES(ドゥエンデ)”(魔性をおびた魅力)かも〜?、!!」と思いました。
歌とギターだけではない、会場のあらゆる音が入っているテープを聞きながら、目に涙を浮かべ、鳥肌の出た腕をさすりながら何度も一人で うなずいている隣にいた「おじいちゃん」の姿がうかびました。・・・・・

 『II Festival de Cante TRIANA “ PASANDO EL PUENTE”』 というフェスティバルが“POTAJE”の6日後にありました。(1979-6-29)
なかなか味のあるこのフェスティバルのポスターがどこにでも貼ってあり、とても楽しみにしていました。 当日はトゥリアーナの人が全員集ったのではないかと思うぐらいの人が会場にあふれていました。

 はじめに、チャノ・ロバートが、エル・ルビオのギターで、「ソレア」と「アレグリアス」を歌い、次に、パコ・タラントがパコ・セペロのギターで、 「ソレア」と「ブレリア」(私が買ったばかりのレコードにある曲でした。)
次に歌ったのは有名なフォスフォリートとギターはエンリケ・デ・メルチョ―ルです。エンリケのギターソロをマドリッドで聞いた時に、 彼の親父さんのメルチョ―ル・デ・マルチェーナと逢えたのを思い出しました。

 フォスフォリートが挨拶し、エンリケが「ソレア」を弾き始めました。歌い始めて、しばらくすると、『エンリケ! も〜ちょっとゆっくりと弾かんかいな!』 と野次が飛びました。・・・こっちは録音しているのにまわりのうるさい事には腹が立ちました。・・・しかし後でこのテープを聞いたのですが、えらい早い「ソレア」で驚きました。  「ソレア」の後、「タラント」と「アレグリアス」でした。

 次に、ラ・タティーが「ソレア」を踊り、彼女のサパテアード(足のリズム)に圧倒され、コンパス(リズム)についていくのが大変でした。
カンタオール(歌い手)が歌っている時の歌振りに、なんともいえないタティーの、歌の内容を聞きながら抑えている感情が(気持ちが) 伝わってきました。その抑えていたものが、歌が終わりかける時にその歌をもりあげるかのようにテンポを徐々に上げ、 「ジャマーダ」で爆発したかのように〆めるのです。その止まった瞬間、『オ〜レー!』と声がかかりました。(「ジャマーダ」は、止まる前の合図)

 タティーの踊りを見ていて、テンポは踊り手がリードするんだという事に気が付きました。当然、カンテ(歌)は歌い手に委ね、 彼女がよく聞いているのが判りました。歌い手の歌い節が盛り上がっていき、叫びに変わるころ、そのカンテを、歌い手を、盛り上げるというか、 カンテと踊りで、より大きな感動にもっていくために、テンポを上げ、キメているんだな〜とわかりました。  踊りが止まった瞬間、肩で息をするタティーが『今のキメ(〆)方はどう〜?、いいでしょ!?』と身体全体で聞いているかのようです。 会場の人々は間をおかずに『オ〜レー』と答え、この後、彼女の粋な踊りの振りの一つ一つに歓声が飛び、舞台と観客とが一つになり、 より大きな「ノリ」が生まれていくのです。

 小柄なタティーがだんだん大きく見えてきました。あたかも、彼女の今までの人生を「踊りのソレア」で表現しているかのようでした。・・・・・・・・・


来月に続く

■エル・アルボンディガのプロフィール


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