参加者から寄せられた声
*2005年5月ご参加頂きました 馬場克彦さんからのレポートです。
(2005年5月に2週間はSNJ日西文化協会の古村さんと一緒に、後の1週間は1人で歩き、最後はバスと列車でブルゴス、レオンを経てコンポステーラへ行きました)
・・祈りの旅・・
1、行き先の教会での祈り
巡礼路には十数人の住人の村、千人規模の街、コンポステーラやレオン、ブルゴスのような都会等いろいろな所がありますが、殆どの地に教会があります。壮大華麗で常時入堂できるカテドラルや、常時は開けていないが日曜日毎にミサのある三日市のような教会、殆ど無人で廃墟となりそうな歴史遺産としての教会等いろいろな教会がありますが、多くの教会で中に入り祈る事が出来き、巡礼者が地元の方と一緒にお祈りをしていました。
天井を飛び遊ぶ小鳥の羽根音を聞きながら、小窓から零れる陽のまろやかな光に包まれて静寂そのものの石つくりのロマネスクの教会でお祈りをしていると時間が止まったような錯覚におちいります。
一方、絢爛華麗な彫刻、祭壇画に囲まれ、ステンドガラスを通じて取り入れた豊かな光のもとでの豪華なカテドラルの祈りは神の力強い栄光のメッセージを感じます。
又忍び寄る荒廃に抗っているような古びた教会で祈る時もありましたが、そんな時は
遠く昔の中世の巡礼者の祈りが聞こえてくるような気持ちになります。
日々の生活の場で祈る事が大切な事は勿論ですが、日々の生活を離れて、遠く異国の地の違った環境で祈るのも貴重な体験になるのではないでしょうか?
2、行き先の教会でのミサ
大きな街では、日曜日以外でも地元の方と一緒にミサにあずかる事が出来ました。
どこの教会でも世界共通の典礼でミサに参加出来るのは幸せですし、聖歌も日本と同じのもあり懐かしい気になりました。
特にコンポステーラでは私達巡礼者の為のミサをたてていただきましたし、レオンのカテドラルでは重厚なパイプオルガンの音にリードされながらの素晴らしく荘厳な歌ミサにあずかる事が出来ました。
又ブルゴスではミサの後、聖歌隊とオルガニストによるコンサートを楽しむ事も出来ました。
ただ一つ、言葉がわからないのは寂しい思いでした。日本の教会に来られる外国の方は難しい日本語をどう思われているでしょうか?
3、道中での祈り
巡礼は主な趣旨である贖罪に平癒祈願が加わったものでしょうが、現代でも中世と同
じように、道中人々は悩みや疑問を抱えつつ何かを求め祈りながら歩いているのではないでしょうか?
コンポステーラに着いた時、道中の祈りは聞き入れられるのでしょうか?
疑問や悩みは解決されたのでしょうか?
コンポステーラで会う多くの巡礼者の明るい落ち着いた笑顔が印象的でした。
もっとも、私の場合は厳しい山道、雨中での泥んこ道、厳しい暑さの中で日陰のない
草原路等では何も考えられず、唯ひたすら歩くだけという事でしたが、
その何も考えない空白の時間も悪くないと思えました。
世の忙しさと欲望の攻撃に
晒されている現代人にとって巡礼路を祈りながら、或いは無心で歩く事は素晴らしい
経験だと思います。
・・芸術鑑賞の旅・・
コンポステーラの巡礼は中世芸術の鑑賞旅行とも言われます。
巡礼の道筋でも私達は晴らしい中世の教会建築、彫刻、絵画に触れ
る事が出来、私達の美にたいする目を養い育ててくれる事でしょう。それらを目にふれる
事によりレコンキスタの動きと相俟って沢山の有名無名の芸術家達が巡礼路の教会建設に
又彫刻絵画つくりに心血を注いだ事が分かると思います。
これらは彼ら芸術家の信仰宣言であろうし、又その時代の民衆が希求した信仰を代弁表現
している面もあるのではないでしょうか?
ルネッサンスともビザンチンとも異なる信仰表現があり、それは現代人の心にも深く沁み込むものがあると思います。
1、教会建築
巡礼路では世界に誇る素晴らしいロマネスクやゴシックの教会を見る事ができます。
又時には他のヨーロッパの国では珍しいイスラム建築の影響をうけた教会に遭遇することもあります。
比較的古いロマネスク様式の教会は厚い石の壁で石の天井や建物全体を支えています
がそれらが重量感あふれる内部空間を形成し、小さい窓から差し込むわずかな光線が石と
戯れ、神秘と犯しがたい荘重さをかもし出しています。
又ロマネスクの特徴として石の柱
の上の柱頭部分に様々な装飾や物語が彫られていています。
新約や旧約の世界を素朴に自
由な表現でのびのびと彫っていて清新なイメージを与えてくれます。
その後、建築技術の進歩により堅固な柱で建物を支えることが出来るようになると、より
高く、より大きな教会建設が可能になり、窓も思い切って大きくとるゴッシク建築様式が
ひろがってきています。
ゴッシクの時代になって人々は聖書の内容を大きな窓のステンド
ガラスの美しい光物語を通じて教わる事が出来るようになったと言えるのではないでしょ
うか?
街はより高く、大きく、立派な教会の建設を競うようになったようで、巡礼地には
レオンをはじめ多くの美しいゴシックの教会があり、巡礼をしていると生きた美術館、博物館巡りをしている気分になります。
2、祭壇画、壁画、彫刻
教会の中では勿論、修道院でも祭壇画、壁画、彫刻を見る事ができます。又、カテド
ラルのある所では博物館が併設されている場合が多くそこでも沢山の美術品を見る事が
出来ます。
特に心をひかれたのはマリヤ様の像です。東方教会のイコンのマリヤ様は悲しみを秘め
た姿が多く、ルネッサンスのそれは「聖母子」から人間の「母と子」への移行が見られるのに対し巡礼路でのマリヤ様は素朴な中に、足で蛇を踏まえ、御子をしっかり膝に
乗せた力強く、崇高で神々しいものが多いように思えました。
・・運動の旅・・
巡礼路の殆どで美しい自然を満喫できます。
花と鳥に囲まれて天国か極楽浄土のイメージのする所や、一面の麦畑の中の一本道を天まで歩くような所や、雄大な遠景や真っ青な大空に足元を見失いそうな所や、お伽の国を歩いているのかと錯覚しそうなロマネスクの教会の村や、とにかく歩くだけでもスペインの巡礼地にくる価値があります。
もっとも坂道もありますし、泥んこ路もありますし、悪条件での歩行を強いられる時もあります。しかし日頃、平易に便利に快適に過ごす事に慣れ親しんだ我々に良いことずくめでない道のりは適度に心身に心地よい刺激を与えてくれます。
10kgを背負い、1日30kmの巡礼で健康を取り戻したり、若返ったり、痛みが和らいだ方もおられるようですが、私の場合少なくとも肥満が少し解消しました。
心身を日々の忙しい生活で消耗されている方、日頃の運動不足を増健器具だけで解消されている方、荷物を背負って歩くという原始的な運動で健康を取り戻してください。
・・結び・・
以上3つの観点以外にも多くの国々の巡礼者と交われる事、美味しいスペイン料理が賞味できる事、宿泊費用が巡礼宿を利用すると1日1、000円程度と安い事、巡礼地は治安上問題が少ない事等から最高の旅でしたが、SNJ日西文化協会のサポートがなければ、実現不可能でした。
来年以降、SNJ日西文化協会にお世話になってブルゴス以降を更に1人で歩く計画です。
馬場勝彦