文 化 活 動

 歩くヤコブ(サンティアゴ)巡礼の旅 体験レポート

参加者から寄せられた声


*2006年9月末〜10月にかけてご参加頂きました Y.I.さんからのレポートです。

無信者夫婦の巡礼記

2006年11月23日 by Y.I.

巡礼は四国のお遍路さんがするものぐらいにしか考えていなかった私ども夫婦がスペイン巡礼の旅に誘われた。
誘ってくれたのは30数年前、偶然同時期をNYで過ごした友人2夫婦で彼らは全員が正真正銘のカトリック。
私どもには場違いの旅かと迷ったが、最後は家内が一言、「元気なうちに歩く旅もいいわね、そして私たち夫婦の人生総懺悔の旅にするのもいいかしら・・・」。
内心ぎょっとしたが、「よし!それなら俺も受けて立たねば」とあっさり参加が決まった。

もっとも「巡礼と言っても、今回はザックを担いで歩くのはほんの最初の70Km程度。
「道中は名だたるスパニッシュワインの産地。それにおいしい海の幸、山の幸には事欠かないよ」との甘言に惹かれたのも事実。
マドリッドから列車とタクシーを利用して、巡礼開始地点のロンセスパジェスへ。
バスク地方の秋は、吹きつける風は冷たいが空はあくまで青い。
いよいよ期待と一抹の不安とともに巡礼開始。
背負いなれないザックは少し肩に重いが、杖を持ちホタテ貝の道しるべをつたって汗をかきながら歩くのは、思っていたより快適だ。
巡礼の道は山を越え、野を越え、村を過ぎ、町中を横切り果てしなくサンティアゴ・デ・コンポステラへと続く。

途中教会、カテドラルが出てくると、足を休めて立ち寄る。大きな町のカテドラルには美術館のあるものが多い。
美しい自然の中を歩くのも素晴らしかったが、ゆったりと組まれた日程のお陰で、世界遺産の巡礼路にふんだんに出てくる
中世の教会建築、絵画/彫刻などをじっくりと鑑賞することが出来た。

今回案内をしてくれたSNJ日西文化協会スタッフのK氏(カトリック王国スペイン在住23年)は大変な勉強家。
ヨーロッパの中世史、宗教史、美術史などに詳しく、その系統だった説明を聞いてこれまでは
「ただ見て通過する」だけだった西欧の宗教画/彫刻や教会建築の見方が少し判ったかなと思うのもこの旅の収穫。

毎夜各地のワインを味わいながらK氏を囲んでカトリック談議にも首を突っ込んだ。
無原罪、御身籠り、神の子(神そのもので無くて)、精霊、奇跡、聖人などと私には理解しにくい言葉の連続に戸惑いつつも、
的外れの議論をもちかけ喧々諤々とやり合ったのも懐かしい思い出。
確かに中世カトリックの歴史とその遺産は文句無く素晴らしいと思う。
が一方で、色々見聞きしているうちに言葉でうまく表現できないが「カトリックの重い存在感」とでも言うべきか、
何かこちらが押しつぶされるような重いものを時折感じたことも事実。

K氏はスペインのワインや食べ物にも飽くなき興味と知識をお持ちの御仁で、これも薀蓄をしゃべり出したら止まらず、夜はふける。
お陰で美味しい店に数多く行き「巡礼の道」は期待通り「美食街道」でもあった。

私たちは旅の間に友人たちに誘われミサにも数回出た。
今回の旅が人生総懺悔の旅となったかどうか? 家内は何も語らない。
無論私もヤブヘビな質問などはしない。
帰国後私ども夫婦は「相変わらず些細なことで小競り合いを繰り返す」以前と変わらない生活に戻った。
二人の「人生総懺悔の旅」は又少しあとに延びたようだ。