大学３年生の時、最後の学年を目の前にして、周りの友人達がそろそろ就職と言う言葉について

語り始めていた頃、私の頭の中には大学入学時よりあたためてきたスペイン留学の事しかなかった。

そう、友人達の目には大学の奨学金を手に入れた一人の優等生が専門のスペイン語を学びに

憧れのスペインへ旅立つ、、、そのように映ったことだろう。

実際には、そうでもあり、それだけでは無かった。

１年後には就職と言うお決まりの進路が用意されているそんな中で、一体、自分は何をやりたいのか？

４年間スペイン語を学んだ後に、どういった分野でその知識を生かせるのか？　

商社だろうか、メーカーだろうか？　商社って、どんな仕事をするのだろう？

いずれにしても、どれも私の心を引くものでは無かった。

何かが足りない。

進路部の掲示板に沢山貼られた求人情報の中から、初任給と有給休暇の内容を比較して、

より条件の良さそうな会社に面接を申し込み、そして自分の意志とは無関係に、受け入れられた数社を

全ての選択肢とし、その中から自分の次の人生を選ぶと言う生き方に、どうしても合点が行かなかった。

悪いとは思わない。でも自分の中で何かがそれに反旗を翻していた。

そんな時である、奨学金を手に入れてスペイン留学が目の前に現れたのは。

この瞬間、私の頭から「就職」と言う言葉が完全に姿を消した。

　ある意味で現実逃避だったのかもしれない。

その時に考えたのは、とにかく日本とは違った社会を見る事。そして、もしかするとそこで何か

自分がわくわくするような「やりたい事」が見つかるのではなかろうか、、、

そんな希望が、必然的にスペイン留学に対する私の目的を、他の留学仲間とは異なるものへと変えて行った。

そう、自分の目的は語学を学ぶ事のみではないはずだ。１９８４年、秋の私である。

そして、翌年８５年の１月、私は、しんしんと冷える真冬のスペインはカスティージャの大地に立っていた。

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