スペイン生活30年・今も続く私の冒険

くま伝

日本を飛び出してみたいと考えている方々、目的を見出せず悩んでいる方々へ


第10章 大切な出会い


『あなたが払えるだけでいいわよ』


 「せっかくだけど、そんなに有名な先生を紹介してもらっても、とてもじゃないけど、

私には、払えないですよ。それに、こんな歳から始めるなんて言ったら、ふざけていると

思われるでしょう。ご立腹になるかもしれません。」


 知人より、彼女の事を紹介された時に、私は全くの身分不相応だと思った。

日本でクラシック音楽をやっている人であれば、誰もがご存知の大先生である。

英才教育を受ける子供達やプロを目指す音大生が、それ相応のレッスン料を支払って、

その栄誉に与ることが出来るのである。


それでも、とにかく会って来いと言われ、ついに勇気を出して足を運んでみた。

どうせ線路から外れた生き方を選んだのだから、ここでまた普通では無い事を

やったところで何が悪かろう? 

会ってくれると言うのだから、行けば良いではないか。


「それで、ヴァイオリンは趣味じゃなくて、今からプロを目指したいのね?」

『はい』

と答えた私の声はさすがに低かった。


きっと呆れられるだろう。それでも、知人の紹介だから、あからさまには馬鹿にされない

かもしれない。

でも、内心、やはり呆れているのだろう、、、そう信じて疑わなかった。


「面白いじゃない、どこまでやれるのか見てあげるわ」


一瞬、力が抜けた。緊張が解けたせいか、凍りついた血液が一気に氷解しその自由な

流れを取り戻したかの如く、身体が軽くなったのを覚えている。


だが、まだ手放しに喜ぶ訳には行かなかった。お金はどうするのだ? 

毎回、高額のレッスン料を支払う経済力は私には無い。

しかし、ここまで来たら、前進有るのみ。勇気を出して訊いてみる事にした。


「あなたが払えるだけでいいわよ。」


人生には、幾つかの決定的な出会いと言うものがあるのかもしれないが、思い返せば、

本当に多くの方々に世話になり、支えられて生きて来たものだとつくづく思う。

果たして、どうやれば、このような方々に恩返しをする事が出来るのだろうか、、、


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