くま伝
日本を飛び出してみたいと考えている方々、目的を見出せず悩んでいる方々へ
「こんなにたくさんの手荷物は持って入れませんよ!」
手荷物は一つだけと言っておきながら、チェックインが終わった後の免税店でどれだけ
買い物をしても、その機内持込に関しては一切文句をつけられないのに、免税店での
買い物以外の荷物を少しでも多く持っていると、無条件に拒まれる。
商売をするのも良いが、買い物しない乗客にとっては、迷惑な話である。
が、しかし、このような矛盾は社会には充満しているのだから、今更、これ以上の
愚痴は言うまい。
しかし、あの時は、文字通り途方にくれた。私の手荷物のほとんどが、スーツケースに
入りきらなかった楽譜だったのである。
これを今更宅急便で実家へ送ることなど出来ない。
持って行かないと困るものだし、だいいち、宅配便に使う金など持ち合わせていない。
ほとんど絶望していた私の後ろから、元気の良い女性の声が聞こえてきた。
ちょっとあなた、他の客を見て御覧なさい! この子よりもはるかに大きな手荷物を
持っている人なんて山ほどいるじゃない!
それに、中に入ってからお酒やタバコを買う人だっていっぱいいるでしょう!
そんな人に比べたら、この子の荷物なんて、全然問題にならないんじゃないの?」
よくぞ、これだけ強い人がいるものだ。まだ若かった私には、目を見張る光景であった。
先方も意地になっていたのだ。
周囲に集まっていた同じフライトに乗る他の客達に向かってこう言ったのである。
ちょっと君、そのバッグの中には何が入っているの?」
持ってあげません? 機内に入るまでで良いのよ。乗り込んだらすぐ、彼に返せば
良いのだから。ねぇ、皆さん、そうして差し上げません?」
人はどこへ行っても、一人で生きて行くものでは無いのだなぁ、、、
そう思うと、小学生の時に、人と言う文字は二つの線が支えあって成り立っているのだと
習ったのをふと思い出した。
この時に助けて頂いた方々に今更ながらお礼を述べたい。
在住されていた方だったと記憶している。
当時小学生か中学生ぐらいの娘さんと小さな愛犬を連れておられた。
この娘さんもヴァイオリンをなさっていたこともあり、その後もいろいろとお話を
させて頂いたのだが、はて、今ごろはどこで、どうされているのだろうか。
無事機上の人となったのである。
そして乗り込んだ直後、全てが私の元へ戻ってきたのは言うまでも無い。
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