第43章 会社の役割
『皆の幸運を祈る!』
2008年だったと思う。有限会社、スペインなんでも情報社を閉じたのは。
設立後、約十年の年月が流れていた。
その間、ホームページを通じてこの会社の存在を知った人々が何人も、その活動に参加
したいと言って現れた。
日本在住の方でスペインに住みたいと言う人もいれば、すでにスペイン在住でその時の
勤め先から転職をしたいと言う人もいた。
スペインに住むためには、基本的に滞在・労働許可証を入手する必要があり、これを実現
するためには、雇用契約を手に入れなければならない。
この問題で随分と苦労した経験を持つ私は、小規模な会社でありながらも、可能な限り、
そう言った日本人の力になろうと思った。
10年弱の間に我が社で雇用契約を交わし、新規労働許可証を申請し、無事、これを手に
入れたスタッフが2名、他社からの転職を受け入れ、我が社の雇用契約によって更新手続きを
行なったスタッフが2名、そして更に、学生ビザを持ってスペイン語学習を続けながらその
生活費を得、後々、スペインに住めるようにするためのステップとして学生用労働許可証を
申請してこれを得たスタッフが1名あった。
また、マドリッドと言う都会で暮らすためには、それなりの生活費が必要であるにも関わらず、
日系の名だたる大手企業ですら、労働許可証を取ってあげる代わりに安月給で働かせる
と言う会社が多かった中、我が愛すべき極小企業は、誰もが知るそれら有名企業と同じだけの
初任給を工面し、毎年、スペイン政府が定める昇給率に則って給料を上げて行った。
何故なら、少なくともその程度の収入が無ければ、マドリッドと言う町で生活を続ける事に
無理がある事は、長年、貧乏暮らしをして来た私には、判り過ぎるほどに判っていたからである。
会社にしてみれば、新規に労働許可証を申請するとなると、弁護士代なども含め、それなりの
費用がかかるうえに、面倒な手間隙もかけなければならない。
が、しかし、最初にどこかの企業がこれをやってあげないと、これからこの国で働いて住みたい
と言う人達は、なかなか最初の一歩が踏み出せないのだ。
ほとんどの求人広告には、「要労働許可証」と言う条件が付けられているのだから。
これをクリアし、許可証さえ手にすれば、雇ってくれる会社を探す事も随分と簡単になる。
よって、スペイン何でも情報社では、その短い存続期間中、手間隙を惜しむ事無く、
新規の労働許可証申請を行なった。
そして、スタッフ志願して来た人々に言ったものである。
『威張れるような給料は支払えないけれど、日系大手企業と同程度の初任給はなんとかするから、
労働許可証が降りたら、せめて1年ぐらいは頑張って働いて下さい。
そのあと、もっと良い条件の勤め先があれば、遠慮なく転職して良いから。』
かくして、滞在・労働許可証取得と言う、スペインで生活を送るための最初の難関をクリアした
スタッフ達は、平均、2、3年手伝ってくれて、その後、それぞれのより充実した人生を求めて
独立して行った。
頑張れば、もっと多くの後輩達の力になれたかも知れないが、資本金、僅か50万円程度の
小さな有限会社である。上出来では無いか。
¡ Mucha suerte para todos ! (皆の幸運を祈る!)
何人かのスペイン在住日本人となる卵達を見送ったあと、スペインなんでも情報社は、
スペインの法人リストからその姿を消し、我々の活動を続けるための土台として、唯一、
SNJ日西文化協会だけが残った。
これまで、自分と言う一自営業者、有限会社、そして文化協会と言う3種の会計の切り盛りを
して来た訳だが、それが一つ減った事だけでも、私にとっては大きな負担減となった。
これからは自分自身と文化協会の運営だけを行えば良いことになる。
勿論、協会活動に協力してくれている全スタッフの経済状況を常に心に留めながら。
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