スペイン生活30年・今も続く私の冒険

くま伝

日本を飛び出してみたいと考えている方々、目的を見出せず悩んでいる方々へ


第6章 分岐点


『日本へ帰ってどうするの?』


 あこがれた留学も、1年に満たない期間であったため、あっという間にその終わりが

近づいてきた。

帰国すれば、すでに同級生達の中には就職が決まっている者すらいるかもしれない。

さあて、どうするかな、、、

毎日頭の中は、この悩みでいっぱいだった。


 最初の予定では、スペインへ来て、日本とは違った文化に触れ、そしてその中で

きっと何か自分のやりたい事を発見出来る「はず」であった。

留学生活が終わろうとしている今、その成果の程は?


この国では、いろいろな事を学んだ。 沢山の発見もあった。


この国の人達は、、、


* 小鳥の餌だと思っていたひまわりの種を食べる

* ひまわりの種を割って、その中にある小さな実だけを取り出して食べるのに1秒とかからない

* ハンカチで鼻をかむ

* 大半の人がどうもトイレで手を洗わない

* 一日中靴を履いているので、足が恐ろしく臭い

* 物凄く大きな声で話す人が多い

* 朝から晩まで、バルで酒を飲む人が絶えない

* オレンジの皮をナイフを使ってりんごのように剥く

* 写真を写してあげると異常なぐらいに喜ぶ

* アジア人は皆、中国人だと思っている

* 時間を守らず、待ち合わせをしたはずの時間に家を出る

* 一杯のコーヒーに砂糖を二袋全部入れる、、、


そう、実にいろいろ学んだものだ。


それで?

日本へ戻って何をするのだ?


「予定通り、やりたい事を見つけられたのだろう?

 いい加減、自分に嘘をつくのはやめたらどうだ?」


『いや、嘘なんかついていない。今更、無理なんだから仕方ないだろう?』


「それ見ろ。仕方無いなんて言っていると言うことは、やっぱりそれが

 やりたい事なんじゃないか!」


『それはそうだけど、無理なものは無理だからなぁ、、、』


 日本では普通、英才教育だとかなんとか言って、幼稚園児の頃から、

ヴァイオリンを習わせると言うのに、こんな20歳も過ぎた男が、

今更ヴァイオリンで食っていこうなんて、誰が考えても有り得ないし、馬鹿げている。

非現実的としか言いようが無いではないか。

これは新しく発見した趣味の一つとして、続けていければそれで良い。

日本へ帰ったら、、、


日本に帰ったら、そう、他の多くの友人達に混じって大学の進路部に貼ってある

新入社員募集の紙とにらめっこしながら、一番、終業時間の早い職場を選ぼう。

そして、帰宅した後、どこかのアマチュアオーケストラに参加して趣味としての

ヴァイオリンを続ければ良いではないか。

こんな素敵な趣味を発見出来ただけでも、今回の留学は有意義だったと思う。


 『夢は夢。 もはや現実を見つめて、しっかりと独立した社会人になれるよう

  努力すべきだぞ!』


 私の日本人としての常識と良識は、このような判断を下そうとしていた。


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