くま伝
日本を飛び出してみたいと考えている方々、目的を見出せず悩んでいる方々へ
心の中に、何かを発見した喜びが確かにあった。
しかし同じ心の中に、完全なる決断にブレーキをかけようとするもう一人の自分もいた。
長い年月、日本で培われた日本人としての常識を背負った私である。
何かもう一つ、私が後戻りしないように前へ前へと押しだしてくれる力が必要だった。
勿論、ヴァイオリンをかかえてである。帰国前の最後のレッスンであった。
なんてしていない。
楽団仲間とシェアーするマンションには最低限のものしか見当たらず、実に質素な
生活を送っているのが、一目見れば判った。
それでも故国ポーランドでの生活に比べれば、スペインの小さなオーケストラで稼ぐ給料は
より良い生活を与えてくれていたのだろうか。
以前、マリア・ホセと話した時と同じ事を答えた。
ほとんど無いかもしれない。それに日本でヴァイオリンを習おうとすると、随分と
お金がかかるから、、、』
本当にそれで良いのだろうか?
人生にかかわる大きな間違いを犯そうとしているのではないのか?
そんな気持ちが、アナの問いに答えながらも私の頭の中を駆け巡っていた。
そうしろと周囲の全てがそう言っているではないか!
潮の流れに乗ってみよう!
音楽を勉強するための奨学金だってあるはずだ。
アルバイトをしてお金をためて、奨学金をもらえば、或いは何とかなるのでは
なかろうか、、、そうだ、きっとなんとかなるに違いない。
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